移民排斥と一国主義の不毛

 先に、今回のイギリスのEU離脱とアメリカでのトランプ支持の盛り上がりは、移民排斥と、労働力の安い所に仕事が奪われてしまうグローバル経済に反対して一国主義に回帰しようとする同じ世界的潮流の表れであると申し上げました。
 そして、その原因は世界中の富の半分が1%の富裕層(株主・投資家)に独占され、残りの99%の労働者の賃金がコスト削減の名の元に下降の一途をたどり、先進諸国においても貧困が蔓延し始めていることにあることも見てきました。
 そのような富の一極集中と貧困の蔓延がどのようにして引き起こされたのか、これまでの説明では多少舌足らずな所もありましたので、繰り返しになるとも思いますが、もう一度、具体的に詳しく振り返っておきたいと思います。
 結論から先に言っておくと、それは、先進各国政府によるグローバル経済と新自由主義政策の推進によって、あらゆる経済政策が、グローバル企業とその株主にとってのみ都合の良いように優遇されてきた結果であると言えます。
 日本を例にとれば、戦後からの数十年間の日本の労働者は様々な法律によって手厚く保護されていました。いわゆる、終身雇用制度に代表されるように、一度就職すればその企業に一生を捧げると言う人々がほとんどでした。
 そのお陰で、戦後から1980年代にまでは一億総中流階級と言われるほど、貧富の格差は限りなく縮小し、人々の生活はどんどん豊かになっていきました。
 その時代までは、アメリカも含めて世界中の企業の経営者たちも、企業の利益を充分に従業員に還元することが企業としての社会的責務であるという企業倫理感を持っていました。
 ところが、1980年代ごろよりレーガン大統領らによって始められた、市場原理主義最優先政策と小さな政府の名の元に、国民の為の福祉や公共サービスをとことん削減して、公営事業の民営化、経済の対外開放、規制緩和による競争促進、労働者保護廃止などの、国民や労働者よりも、企業活動の利便性を最優先する政策が、あたかも最善の政策であるかのごとく、先進各国の政府によっても取り入れられるようになったのです。
 日本においても、小泉政権の時に、規制緩和の名の元に、それまでの労働者を保護するための様々な法律や規制はことごとく撤廃され、その時から、派遣社員という何時でも首を切れる企業にとっては極めて都合が良いが、労働者にとっては極めて不利な雇用形態が認められるようになりました。
 その理由は、企業が国際競争に勝ち残っていくためには、労働者の賃金を含むコストをできる限り削減して、価格競争力と収益率を維持するためというものでした。
 折しも、中国が世界の一大生産拠点として台頭してきたために、中国の安い労働力を使った企業が価格競争でも収益率でも生き残るという構図が出来上がってしまい、各国の企業も自国の従業員に充分な賃金を払いつづけると、国際競争に生き残っていけないという状況に追い込まれてしまったわけです。それ以来、従業員に高い賃金を払いつづける企業は世界中から消えて行きました。
 というよりも、従業員の賃金はできる限り削減すべき「コスト」であると言う考え方が半ば常識化してしまったわけです。
 このようにして、世界中の労働者の賃金はどんどん削減され、貧富の格差はどんどん広がっていったのです。
 日本においても、企業の人件費削減のために生み出された派遣労働というシステムによって、正社員の数は減り、派遣労働者の数は増えるばかりでその平均賃金は大幅に下がっています。そして、今や6人に1人の子供は貧困家庭にいると言われています。
イギリスやアメリカでも特に地方都市では失業率も高く、皆、ぎりぎりの生活を強いられており、鬱憤や不満は募るばかりになっています。
 その一方で、世界中の安い労働力を使って収益力の上がったグローバル企業だけが膨大な利益を上げるようになり、その株主達にその大部分の利益は還元されていき、結果的に世界中の富の半分が1%の富裕層に独占されるという今日の状況が生まれてしまったわけです。
 本来なら、そのような富の一極集中と貧困の蔓延は、グローバル企業だけが優遇される、いわゆる新自由主義とグローバリズム政策によって引き起こされたわけですから、各国政府はその過ちを直ちに反省し、各国政府が協調して、企業や投資家よりも、まずは労働者の賃金を第一優先することを義務付ける国際労働協定を定め、投資に対する配当の上昇率と労働者の賃金上昇率を必ず同等にすることを国際法で義務付ければ良いのであります。
 そうすれば富の一極集中は解消され、世界中の労働者の賃金は上昇し、世界中の労働者の購買力が上昇するために、景気はどんどん良くなり、売り上げも上がり、それがまた労働者の賃金上昇につながるという好循環が生まれます。
 当然、物価も上がりますが、賃金が上昇すればそれは相殺されます。また、安い労働力を雇った企業や国が有利にならないように、関税障壁もうけるなどして、無用な国際競争がなくなるような国際法を整備する必要もあります。
 そして、世界中の企業が同じ国際法を守り、収益の一定率を必ず従業員に還元するという同じ義務を守りながら、自由競争を続けることで生産性も維持できるということです。
 このような方法以外で、現在の危機的状況を回避することは不可能であると思います。
 トランプ氏や今回のイギリス国民の選択のような、問題の本質を放置したまま、すべてを移民のせいにしたり、自国だけ一国主義に戻ろうとするだけでは、反って世界経済を混乱さえ、結果的に自国経済をも破滅に追いやるだけだと思います。


About hsgch3
プロの通訳・翻訳家でミュージシャンです。ネット英会話の講師もしてます。I am working for a research institution in Tokyo as an interpreter and also as a translator. I compose synthesizer music.

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