『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』~ロレッタ・ナポリオーニ著

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『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』~ロレッタ・ナポリオーニ著

(以下、引用部分は太字で記述)

1955年生まれのイタリア人。北欧諸国政府の対テロリズムコンサルタント、及び、対テロファイナンス会議の議長を努める著者が「イスラム国」について解き明かす、2015年1/7に出版された書籍である。

『アルカイダは一つの組織にすぎないが、われわれは国家だ』

これは、イスラム国のある戦士の言葉である。「イスラム国とは何であるか」をこれほど端的に述べた言葉はないことを、我々読者は読み進むにつれ、理解していくこととなる。

イスラム国の最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ。彼が数々の成果を上げることができたのは前任者アル・ザルカウィを引き継いだからであり、そしてそのアル・ザルカウィをスーパーテロリストとして拵え上げたのはブッシュ政権であると筆者は看破する。

アル・ザルカウィがアメリカの空爆で死亡後、アル・バグダディが率いる組織は、いくつかの名称の改称を経ながら、2014年6月29日、イスラーム国の建国を宣言し、バグダディ自らがカリフ(神の使徒の代理人。イスラーム共同体の最高権威者)への即位を宣言する。

バグダッド大学でイスラム神学の学位をとっている彼が、カリフに選ばれてから初めての公の場で以下の演説を行う。(公の場にはあまり出てこない彼は、すでにカリスマ性も帯びてきているようだ)

「私はあなたがたを統べるワリ(指導者)である。しかし私が最も優れているわけではない。私が正しいと思ったら、手を貸してほしい。私が間違っていると思ったら、私に教え、正しい道へ戻してほしい。私があなたがたの中の神に従う限り、あなたがたも私に従ってほしい」

著者は、「これは野蛮なテロリストの言葉ではない、聡明で現実的な宗教指導者の言葉」だと指摘する。

この指摘は重要である。アル・バグダディが、もはや単なるテロリストの一首謀者ではないのならば、対イスラム国有志連合が、彼を安易に扱うことは難しいのではないか。我々が思っている以上に、正統な地位を得ている人物とみるべきなのかもしれない。

今までの武装組織とは違って、何故、彼らは支配地域を拡大できたのだろうか?

一つには、アメリカを始めとした、シリア内戦においての反政府武装組織への資金や武器提供が上げられるだろう。アル・バグダディの組織は群雄割拠のその中を駆け上がってきた。アメリカが意図せずとも、結果的に手を貸したと見なされても仕方があるまい。

さらに、油田地帯を収入源として、そこに本拠地を築いてきた戦略性も見逃せない。

あともう一点、大事なことがある。
私達の目に飛び込んでくる、彼らの暴力的な印象とは裏腹に

・戦闘員、非戦闘員を明確に区別し、非戦闘員が、制圧した地域で、道路・学校・病院の補修や食料配給所、電力制御センターなどの設置、住民のバス輸送、郵便局の運営、子供達への予防接種を施す

・ソーシャルメディアを始めとする新しいテクノロジーの活用

・自爆テロ一件ごとの費用にいたるまで詳細な収支を記録した決算報告書の存在

など、近代性と現実主義を兼ね備えた集団であることが支配地域の拡大を可能にしたのだと、対テロのプロである筆者は、そう何度も強調する。

制圧した地域での住民への施しが、現在も引き続き充分に行われているのかどうかは、私は疑問ではあるが、彼らが単なるテロリスト集団ではないことを私達はもはや否定できない。

そうであれば、対イスラム国有志連合に組み込まれようとしている日本人は、彼らに対しての今までの概念を、新たに見直す必要がある。(果たして、欧米人にそれができるであろうか?)
仮に、誤った認識をもとに彼らと対峙し続けていけば、こちらが困難な事態に直面するのは避けられないのではないだろうか。

そもそも彼らが、イスラム国の建国を宣言した目的は何であったのだろう?

「イスラム国自身はその正統性を、7~8世紀にアラビア半島に存在したイスラム帝国の最初の領土に求め、かつての自分達の土地の権利を現代に取り戻すこと」

「イスラム国の第一義的な目的は、スンニ派のムスリムにとって、ユダヤ人のイスラエルになることである」

それを実証するかのように、イスラム国はすでに、

「1916年にサイクス=ピコ協定(イギリス、フランス、ロシアがオスマン帝国の領土分割を取り決めた密約)で定められた国境線を破壊しつつある」状況を作り出している。

これは、「数世紀に及ぶ圧政と屈辱、グローバリゼーションと貧困の拡大」を行ってきた欧米支配からの解放を目指すという、恐るべきほどの決意を秘めた反発なのではないか。そしてそれは、驚くべきほどの速さを以て実現しつつあるように思える。

もしそうであるのならば、欧米諸国が慌てるのは無理はないだろう。この地での彼らが手にしていた既得権益を失うのかもしれないのだから。

ここで私達は、自身に問わねばならない。

手法や歴史的背景が違うとは言え、「欧米植民地支配からの解放」を目指した国が過去になかったか?
今、その国は、このイスラム国とどのように対峙しようとしているのだろうか?

安倍総理のイスラエルでの会見の、「テロには屈しない」という言葉に、私は密かに眉をひそめた。

欧米の言うその言葉の奧に、「テロの原因は私達にはない」という欺瞞が満ちていることに我々は気づかなくてはならない。日本の総理が安易にその言葉を使うことに私は危うさを感じた。

地元の新聞に、「事務方から会見発言の案文が(総理に)届けられた。目を通した後、周囲に「テロに屈しない」とのメッセージを書き足すように命じた」と報道されていた。

とすれば、総理の周囲の人間達は、イスラム国を取り巻く状況を把握しており、安倍総理自らが、それを振り切り、突き進んだと見ることもできる。

今回の残虐な人質事件で、一国民が激昂することについては、私もその内の一人なので否定しないが、その感情を外交政策にまで昇華させて影響を与えるようでは、日本国家の進路を見誤るのではないだろうか。

しかしながら、安倍政権は、そんな私の危惧をよそに自国民を煽り、この日本をあらぬ方向へ導こうとしている気がしてならない。

そして、今回の人質事件を機に、中東への関与を縮小する声が日本国民の間から上がるのは許さんとばかりに、オバマ大統領が先手を打ってきた。

『人質「殺害」を非難=イスラム国裁く-米大統領』
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201501/2015012500047&g=int
オバマ大統領「同盟国の日本と共に対抗する(中略)われわれは協力して殺人者に裁きを受けさせ、イスラム国を最終的に打ち負かす断固たる行動を継続する」

嫌な予感しか湧いてこないこの言葉。まるで、イラク戦争開始時のブッシュのようではないか。
我々日本人は、今一度踏みとどまって、じっくりと考えるべきであろう。
幸いなことに、現在の日本では、まだそれほどの激情は渦巻いてはいない。冷静な議論をする余地は十分にある。

現代のイスラム国家では、不正や不平等や腐敗が日常茶飯事だという。そこで生きるムスリムの若者達に、「たとえいま自分がどこにいるとしても、必ずや守ってくれる強力な宗教国家」だと思わせるイスラム国は、「ヨーロッパやアメリカで暮らすも、社会の一員になることができないムスリムの若者」にとっても「魅力的で訴求力がある」と、筆者は分析する。

私達は、そのようなイスラム国に対し、今後どのように対応していけばいいのだろうか?

イスラム国との問題、そして日本の未来の在り方を、自分自身に問う手がかりとして、本書を手にされてみてはいかがだろうか。

最後に、イスラム国のメンバーによる声を本書から引用して、今回の書評の終わりとしたい。

『あなた方は処刑だけを見ている。戦争には、戦争犯罪や内通者やスパイがつきものだ。それに我々は食料配給所を作り、(中略)、要するに、一部の行為が目立ちすぎているだけだ。われわれは、泥棒を罰する。だがあなた方だって、無関心によって大勢の子供を罰しているのだ

(了)


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  • コテヤン@どうやら管理人

「『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』~ロレッタ・ナポリオーニ著」のコメント一覧

  1. 1
    charleyace 影法師  :

    今年1月、進撃の庶民にて掲載させていただいた書評です。
    今回のフランス・テロ事件に際し、日本国民に再度考えていただきたいという思いから、ブルーオーシャンにて投稿させていただきました。

    初めてこちらのBOで投稿編集作業をさせていただいたのですが、使い切れないほどの高度な機能が満載で凄いですね・・・。

    他の皆様にもこの凄さを味わっていただきたいです^^v

  2. 2
    コテヤン@どうやら管理人 コテヤン@どうやら管理人  :

    書評ありがとうございます。
    フランスでの事件があったあとなので、大変に興味深く読ませていただきました。
    非常に面白そうであり、というより書評そのものが秀逸なのでうっかり書評であることを忘れそうでしたw
    (本の存在を忘れかけましたw)

    ぜひともこれは近々購入せねば…
    私も本日仕事の合間にブラックデモクラシーという藤井先生やその他先生の著書を入手しました。
    これはぜひ書評を書かねば…

  3. 3
    charleyace 影法師  :

    >>コテヤン@どうやら管理人さん

    いやいや、こんな拙い書評のことより、今回、書評を投稿して、改めてブルーオーシャンの凄さがわかりました。その興奮を明日の朝刊進撃でばっちり書きましたので、そちらを期待?していてください^^/

  4. 4
    コテヤン@どうやら管理人 コテヤン@どうやら管理人  :

    >>影法師さん
    いやぁ…そんなに褒められると照れちゃいます(デレデレ
    明日の進撃の朝刊ぜひ拝見しますです~(ドキドキ