地方政治における新自由主義を考えてみる

地方政治において新自由主義という概念は成立するのだろうか?それとも成立しないのだろうか?
先日Gokai様からご指摘いただき、上記の論証をしてみようと思いました。

そのためにはまず新自由主義という概念をおさらいする必要がありそうですので簡単におさらいしていきましょう。

1)小さな政府(財政均衡主義)を目指すものである、そのための民営化と市場原理主義という考え方がある
2)競争こそが供給能力を伸ばす、そしてそれが需要を伸ばすという「セイの法則」

まずもって上記2つは同じような概念なのだけれども、わかりやすくするためも違う言い回しで書きました。
そして地方政治と国政が違う点はなんだろうか?と考えますと通貨発行権のあるなし、が最大の違いと言えようかと思います。
その他にも大規模投資は地方だけではなかなか難しい、という面もあるかと思います。

上記のような事実を踏まえた上で地方行政の形態、債務、成長率という観点から考えていきたいと思います。

【地方行政の形態】
いわゆる基礎自治体と呼ばれる単位が地方政治における最小単位となろうかと思います。
この基礎自治体には以下の様な形態があります(権限が大きい→小さい順)

政令指定都市、中核市、一般市、特別区

一般市には市町村が入るかと思います。
そしてこの場合、権限の小さい一般市や特別区では基本的に広域事業などは都道府県に委ねられておりまして、ケインズ主義や新自由主義等々の財政政策は行える余地があまりないため、論点を政令指定都市に絞らせていただきます。
つまり一般市以下の市町村ではあまり政策に幅がないため○○主義的な政策、というには権限がなさすぎてという話になります。

さて、政令指定都市というのは都道府県と同じような権限を持った自治体であります。
つまり今回論証するのは都道府県及び政令指定都市という事になります。以下「自治体」とこれを呼称します。

【地方における債務の位置づけ】
地方における債務の位置づけと言うのは、国の財政と違い通貨発行権がないのでその自治体にとっては文字通り借金です。
そして実質公債比率という定義によってこの比率が18%以上になりますと起債許可団体(起債する際に国に許可を取らなければならない)になります。

この実質公債比率ですが自治体収入における返済金額の比率だということです。
(ちなみに実質公債比率が25%を越えますと財政早期健全化団体に転落し、総務省の厳しい管理下に入ります)
つまり…かなりややこしい説明になりましたが、実質公債比率を下げるためには2つの方法が考えられます。

1)財政拮抗主義による緊縮財政
2)財政出動によるGDPの増加を目指した積極財政

なんと通貨発行権がない、と言う以外は財政政策については「国の方法論が一定程度使える」のではないでしょうか?
勿論債務に実質公債比率というパーセンテージの上限があるので、財政早期健全化団体に転落してからでは緊縮財政以外の選択肢はないのですが。

【成長率と税収】
自治体といえども成長率と税収の関係性はあるはずです。いわゆる税収弾性値と呼ばれるもので、GDPが1%上がった場合に○%の税収があがるという相関関係の数字です。
国の場合は税収弾性値がデフレ期で2.5~4と言われております。
(財務省以外の民間の全てのシミュレーターが上記を正しいとシミュレーションしております。財務省だけは何故か1.1という数字です)
(財務省のシミュレーターはサプライサイドモデルと言われる、後進国用モデルのようです。IMFを参考に作ったものだとかなんとか)

残念ながら自治体の税収弾性値のデータ等々は探してもなかったため、論証は難しいですが国とそう大きな乖離はないのではないかな?と推察します。

【国との兼ね合いと地方交付金】
ただし地方財政や地方経済を見る場合に難しいのは、常に国との兼ね合いがあるということです。
国が過激な緊縮財政をしている時期に、自治体のみでいくら積極財政を行っても限界があります。
逆に国が積極財政を行っているならば、自治体が多少緊縮財政を行ってもGDPと税収は伸びるでしょう。

また自治体は地方交付金という「格差是正システム」によってある程度、格差が広がるのを国が防いでいる部分もあります。
そういった意味においては国の財政政策が地方に及ぼす影響は無視できず、自治体全体の成長率もまたそれによってかなり左右されることは確かです。

しかしそういった状況で自治体の財政政策がどのように自治体に影響しているのか?を見る場合に近隣他県との比較、もしくは全国平均との比較が有効であろうと思います。
ちなみに大阪府、大阪市を全国平均と比較すると2008年から現在まで以下の様なデータが有るようです。

全国平均のGDP:-0.2%
大阪府:-0.8%
大阪市:-1.4%

近隣の京都府や兵庫県はマイナスにはなっていないようです。
筆者は大阪市在住でありますので、他の県のデータ等々にはまったくもって無知で、またその量も膨大なものになろうかと思いますのでこれに関しての検証は個人では不可能だと考えております。

【自治体におけるレントシーキング】
財政問題が問題になりますと必ず「じゃぁ民営化だ」という議論が出てきます。
つまり民営化することによって自治体の支出を減らそうとする試みであります。そしてこの時必ず「民営化してサービスも良くなる、料金が下がる」という論も度々持ちだされます。
本当でしょうか?

これは筆者の知る事柄で言えば発送電分離と電力自由化の論が当てはまりそうです。
つまり発送電分離をして電力への自由な企業参入をするので、競争が起きて価格が下がるはずだという議論です。
残念ながらこれは幻想にすぎないと筆者は考えています。何故か?

いわゆるこの議論に当てはまる国々、ドイツやアメリカ等々の現実的なデータを見ますと「日本以上に電気料金が上がっている」からです。
詳細な議論は割愛しますが、電力への企業参入を自由化して競争が一時期激化しても、そのうち寡占化がすすみ結局寡占化が進んだ結果として電気料金を値上げ、つまり利益の最大化が行われるという事になります。

これは地域独占事業の民営化という話になれば、そもそも競争すらありませんので端的に値上げは現れるのではないか?と思います。
そしてこういった基礎的なインフラの値上げというものは、増税とさして変わりはありません。使わざるを得ないからです。
では増税が何を招くのか?と言いますとおおよそGDPの減少という結果に繋がる緊縮財政政策であるというわけです。

【総論】
以上色々と論証してまいりましたが、政令指定都市や都道府県では新自由主義的な政策とそうじゃない政策、これを選択する幅があるのではないか?と筆者は結論づけます。
少なくとも緊縮財政と積極財政という2つの方向性があるのだと思います。実質公債比率という制限があるにしても。
また地方経済においてはGDPを生み出す効果が薄い支出、効果のある支出という考え方も出来るかもしれません。

他にも近隣県との共同プロジェクトによっての経済効果創出という政策もあり得ますが、今回はあくまで一自治体としてどうなのか?という論証です。

ただし筆者の知識にも限界量はあり、多少一般的な方よりも地方行政等々への知識がある程度に過ぎません。
この論証にも穴がある可能性は十二分にありますし、そこは皆様に様々論じて頂けたらと思います。


コテヤン@どうやら管理人
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「地方政治における新自由主義を考えてみる」のコメント一覧

  1. 1
    まさ まさ  :

    私が持っている 「basic 現代財政学 ゆうひかくブックス」に、(自治体行財政改革の動向とその課題)のページがありました。NPMという民間企業における経営手法を行政において導入すると言う物でした。
    第一に行政における プラン→Do→チェックのサイクルを重視し、数値目標を含む計画とその実施の成果を対応させ、目標に対する達成度合いによって、次年度以降の予算策定にその結果をフィードバックさせていく手法です。民間手法といえばいいかもしれません。

    第二に公共サービスのコストを明確化することによって民間部門とのコスト比較を行い、業務の民間委託や、行政部門の独立法人化といったアウトソーシングを図り、行政が直接担う分野の最小化を図るとともに、行政は外部供給者との契約を管理する機能に特化していくと言う物です。

    第3に行政部門の貸借対照表、行政コスト計算書といった会計手法を導入するというものです。

    しかしながらこのNMPという手法は日本ではよくある「民間委託化」「事務事業評価」「貸借対照表の作成」などの個別的な手段だけにとどまってしまっているようです。

    「事業評価の予算へのフィードバック」「契約管理」「組織の分権化」といいう本来のNMPの基本理念は日本では、本当の意味で自治体には定着していない模様です。

  2. 2
    コテヤン@どうやら管理人 コテヤン@どうやら管理人  :

    >>まささん
    お返事遅れました。風邪でうなされておりましたw
    地方行政の難しいところなのですが、例えば敬老バスですとかのインフラ系のように赤字でも継続しなければ、地方の経済全体には悪影響を及ぼす、という性質のものもあるということです。

    ココらへんのサービスコストの明確化、と言うのは非常に難しいかもというのが一点。

    もうひとつは地方行政は赤字でも撤退はあり得ない、という点が一点。
    企業へ外部委託となると、撤退もあり得ますので撤退された場合にノウハウは断絶しており、さらなるコストの増加があり得るという点。
    (例えばその企業がやっていた、地域における事業部の買い取り等々)

    こ~言ったところが難しいんだろうなと。

  3. 3
    holyfirework 灯火  :

    >>まささん

    〉しかしながらこのNMPという手法は日本ではよくある「民間委託化」「事務事業評価」「貸借対照表の作成」などの個別的な手段だけにとどまってしまっているようです。
    「事業評価の予算へのフィードバック」「契約管理」「組織の分権化」といいう本来のNMPの基本理念は日本では、本当の意味で自治体には定着していない模様です。

    定着しない理由は2つあります。

    ①責任回避のため
      検証結果が非効率だの無駄だのという結果になった場合、当然、責任を問われますし、行政の信用も失墜します。地方だろうと国家だろうと、公務員は責任回避を最優先します。

    ②公共性の重視
      自治体の提供するサービスは、民間でも提供できるものが少なくありません。また、民間の方が効率良く提供できるものが、少なくありません。しかしそれはあくまで、ライバルがいて、健全な競争が行われ、市場原理が正しく働く場合に限ります。
    基本的に行政サービスは、自治体が独占的に提供しているものです。民営化した場合、独占企業が独占的に市場を支配することになるわけで、値上げの権利も、サービス切り下げの権利も、思いのままです。
    また、行政の提供するサービスは、ゴミ処理や水道、公共交通など、市民の生活に直結するものが多く、サービスの品質と価格を一定に保つために、非効率でもあえて公営にする意味があります。阪神でも東日本でも、水道管が各地で大破し寸断されても、速やかに復旧出来たのは、公営だったからこそです。
    民営化して果たして、市民の生活と生命を守ることが出来るのか?というのが第二点です。

    改革主義者は①を声高に叫び、市民目線の識者は②を重視するのです。

  4. 4
    baiannmidareame やす  :

     三橋さんが言うところの、第1、第2、第3の層のインフラストラクチャー、農業、医療、教育、水道、などについてはきちんと予算を組み、収益を目的としない行政が行わなければならないでしょう。

    それと、前から不思議だったのですが、民間委託によってコスト削減と言う話は、そのサービスの質を低下させるか、そこで働く人の賃金を上げるか、利用者の支払いを増やすか、しかありえないと思うのです。結局、自治体のコストは削減され、委託業者は嬉しいが、他はみんな不幸になるシステムと言っていいのではないでしょうか?

  5. 5
    コテヤン@どうやら管理人 コテヤン@どうやら管理人  :

    >>やすさん
    >それと、前から不思議だったのですが、

    この部分は核心部分かと~。
    民間委託=その事業のみで利益を企業は出さなければならない
    ですので
    1)質の低下(例えば防災減災等々や安全性など)によってコストカットして、利益を出す
    2)人件費を下げる、もしくは少人数で回せるようにする
    3)価格を上げる

    のいずれかを選択する話になります。
    4)行政からの補助金という選択肢もありますが、これだと何がなんやらw

    んで窓口業務や清掃等々に関しては企業的な運営、外部委託等も可能かもしれません(考察したことがないので…)
    しかし住民サービスの根幹のインフラ系等は2)以外の選択肢では、住民にとっては実質的な増税となろうかと。
    そして2)の場合は企業でなくとも可能という話になります。

    ただ、ここに実質公債比率などが絡んできますので、歳出削減をしなければ起債許可団体や早期健全化団体に転落する、というならばやむを得ない場合もあったりします。
    (私はこの場合、他の地方自治体がやって行けているのに、その自治体がそうなるのは自治体の経済成長がなされていない場合が多いと思いますが…大阪ですねw)

  6. 6
    まさ まさ  :

    民間委託の例としては「指定管理者制度」がすでにあります。この動向を見ていれば、うまくいくものかどうか、分かるのではないかと私は考えております。